病院へ行こう

=5=


ザ・大名行列.....

「下ぁ〜に〜 下にぃ〜・・・」ははぁ〜<(_ _)>

 ななななにやら、ゾロゾロとやってきだぞ・・・

 そう、ここは大学病院。
 毎週水曜日になると「教授回診」なるものがある。
 まぁ早い話、ここで言えば整形外科の教授がその取り巻きを引き連れて各病室を練り歩いていくわけだ。新米インターンから主治医から諸々と看護婦も婦長さん以下これまたぞろぞろと。

 その姿はまるで大名行列である。

 そしてオレ達は地べたにひれ伏す哀れな水呑百姓...てぇところだろうか。なんだか妙に卑屈になってしまう・・・。
 オレの病室にやってきたどんだけ偉いのか知らんが教授らしきジィさま。オレのところへも回ってきてカルテをパラパラとめくり、付き人にボソボソ一言二言言葉を交わし通り過ぎていった。
 わざわざ回ってくるとはご苦労な事だ。

 ・・・ところがこのジィさまが、まさか後のオレの運命を握っていようとは、
この時は想像だにしていなかった。

聞くも恐怖、語るも恐怖の物語・・・
これも例の如くまたまた後程のお話という事で・・・





点滴とアラレちゃん.....
 さて、入院生活スケジュールは、相変わらず淡々とこなされ過ぎ去っていく。入る際の先生の”2,3日間”という言葉が今となっては何も根拠のなかったものと気付くのにはあまりに遅すぎたようだ。いつしかそれは、ただただ「宛てもなく・・・」というものに摩り替わっていた。

 症状としては、当初もしかしたら骨折の疑いもある?とのことから”MRI”(断層写真)も撮った。挙句、足首固定からギプスぐるぐる巻きにされたり、かと思うと外されたり・・・。あたしゃ、ネギトロ巻きかいっ!ってなもんだ。でも結局その心配もなく感染症の可能性と睨めっこしながら、あとは無事に傷が塞がり皮膚が上がってくるのをひたすら待っている、といった状態であった。とにかく外傷が癒える事が先決であった。

 朝は例の如くAM6時の検温で叩き起こされる。続いて洗面を行い、AM8時くらいに朝飯となり、そして・・・AM10時に例の「拷問」の時間がやってくる。そこでひとしきり叫びまくり腹も減ったところで昼飯がやってくるわけだ。そして午後はひたすら暇を持て余す。
 だがその間、たまにイレギュラーの検査が入ったりもする。週に一回程度は血液検査もあり、その度に血を抜かれる。
 オレは死ぬほど注射が大嫌いだというのに、ここまでくるともう慣れっこになっている自分が悲しい・・・。まぁそれもそのはず、まだまだこの時も朝晩は自分の腕には点滴が繋げられているわけだから慣れない方がおかしい。しかしそれでも刺されるのは気が重い。憂鬱になる。まぁ、入院当初よりは本数が減ってきた事がせめてもの救いか。

 そうそう、今回は何もかもが初めて尽くしであったわけだ。
 入院というものも初めてなら、自分の腕に点滴が繋がった事も初めてであった。  ぽたぽたと滴が落ちていく様を見ていると、いやぁ〜本当にオレ、入院してるんだなぁ、と妙に感慨深くなってしまう。こんなシーンはTVドラマでしか見た事なかったからだ。
 そんな物思いに耽りながら、ボケ〜っとその滴が落ちていくのを目で追っているオレ。あぁ、命とはなんと儚いものなのか・・・なにやら悟りを開いた(わけはない)。

 ふと、ぶら下がっている点滴の容器に目が行った。

 ほよ〜!もう空っぽだ!
 やばい!そのままチューブ伝いに体内に空気が入ってしまう!
 あぁー、死んでしまうー!

 慌ててナースコールするオレ。  なかなかやって来ない看護婦さん。
 一滴一滴と自分の絶命が間近に迫り来る恐怖に打ち震えながら看護婦さんをひたすら待ち続けるいたいけなオレ。なんと無力な子羊ちゃんなことであろう・・・。
 程なく点滴を外しにやってきてくれた看護婦さん。
 その姿が天使さまに見えた事は言うまでもない。
 「白衣の天使さま」とはきっとここからきているのだろう(勝手な解釈)
 そして我が命が無事に繋がった事にホッと安堵するいたいけな子羊こと、オレ。

 あるとき、不覚にもその点滴をしたまま寝入ってしまった。
 ぽたぽたと運命の滴は落ちていく。
 そしてオレが寝入ったまま点滴の容器内ではデッドラインが既に越えられようとしていた。
 そうとは知らずにそのまま寝入っているオレ。
 あぁ、このまま天国に召される事になろうとはツユ知らずに・・・。
 しかしこの荒れた世情を見る限り、このまま天に召された方がむしろ幸せかもしれない。
 さぁ、このまま安らかに眠りたまえ・・・オレ。
 ・・・夢枕で聞こえたその声とは裏腹に、ふと目を覚ましてしまったオレ。
 その目に映っていたのはすっかり落ちきった点滴であった。

 あぁ、もうおしまいだぁぁぁ!その点滴のチューブから空気が体内に入り込み・・・これから死の苦しみに悶絶するのだぁぁぁ!

 .....のはずだったのだが・・・その中の薬剤は、腕に繋がれていたチューブの中でちゃんと止まっていた。
 そしてそしてオレは気付いた・・・

 な〜んだ、慌てなくっても、ちゃんと止まってくれるのね。お利口さん♪
 今思うと当たり前の話しだわな。チャンチャン♪
 知らないというのは、げに恐ろしきかな・・・

 ・・・と、自分がおバカだった話しは笑い話で済むのだが・・・

 入院当初は、24時間常に腕には点滴が2,3種類は繋がっていた。その度ごとに針を射しまくっていては腕が穴だらけになって射す所がなくなってしまう。そりゃぁ射される側も気が滅入りそうだ。そこで「ルート確保」をされていた。つまり針は常に血管に刺さりっぱなしになっていて、点滴をする時はその「ジョイント」で繋げるというもの。そして点滴が終わったら、レバー式の”コック”を閉じて点滴を外し、そして腕はフリーになる。
 まぁ考えてみたら、常に自分の腕の血管に針が刺さっていると思うと気持ちのいいものではないが、しかしその度ごとに刺されるよりはまだマシというものだ。針もどうやら固い金属製のものではなく、柔らかいプラスチックのような材質みたいだ。だから普通に腕を動かしても血管を突き破る!みたいなことは起こり得ないようだ。

 ・・・と、前置きが長くなったが・・・

 そんな状態だったオレ。
 ある夜、いつもの如く寝る前の点滴を受け、そしていつもの如く終了につき点滴を外され、そのまま眠りにつく。
 あぁ、今日も一日、よくぞあの「拷問」にも耐え、あの先生のサディスティックな仕打ちにも耐え忍び、オレってば、なんて偉いんだろう・・・ホッとしながら意識が徐々に薄れていく・・・
・・・その刹那!

 ・・・ん?・・・な〜んか変だぞ??

 ・・・な〜んか嫌な予感がするぞ???

 恐る恐るベッドに備え付けの灯りを付けてみた。



















なんじゃこりゃぁぁぁぁ!
(松田優作 風に・・・)





 純白のシーツが血で真っ赤に染まっていた......\( ><)シぎょぇぇぇ


 あぁ、オレってば、やっぱり死ぬ運命だったのね・・・(まだ言うか)
 あぁ、儚い命だったのぅ・・・(もしもし?浸り始めたぞ・・・)
 あぁ、我が人生に悔いなし!・・・(悔いだらけとちゃうんかい?!)
 あ、遣り残しといえば、看護婦さんと・・・ムフフ・・・残念だったのぅ・・・(このスケベ野郎!)
 そうだ、最後にその看護婦さんにお別れを言ってから逝こう・・・(勝手に逝け!)

 ピンポ〜ン♪(ナースコール押す音)

 「はい、どーされましたかぁ?(^o^)」

 「愛しの看護婦さん、さよ〜なら〜〜〜〜〜(;_;)/~~~
 実は、カクカクシカジカ・・・云々かんぬん・・・」

 「わかりました。すぐ行きますからね。」

 「あらまぁ、点滴のコックの閉まりが甘かったのね〜。ごめんなさ〜い♪」

 ・・・・・ということだった。おわかり?
 そそくさとその看護婦さんはシーツと病院着の替えを持ってきて交換してくれたとさ。

 そんな人騒がせなこの看護婦さん、どこにでもいるようなふつう〜〜〜なお嬢さま。
 黒ぶちの丸いメガネを掛けているので、まるで「アラレちゃん」のよう・・・。


 あるとき、なんの話題での会話だったかは忘れたが・・・
 彼女、曰く。。。

 「女性の顔に傷跡が1cm残った場合と、男性のアレちょん切れるのと、同等の後遺障害等級なのよん♪」

 そそそんな〜殺生なぁ〜
 平気な顔してスラリと言ってのけたアラレちゃん。あんた、キャラが違うってば。
 なんとも残虐で冷徹なお言葉。
 ・・・・・ちょん切れる?!あぁ、考えただけでも悶絶しそうな今日この頃。


そ、そうか、女性の顔には十分注意しよう。
もしなんらかの拍子に・・・、それは”チョッキンナ”に匹敵するのか・・・痛そうだ (^_^;;;



た、たのむ・・・切らんといてや〜 アラレちゃん(-人-;)

んちゃーっ!(^○^)/ って・・・(汗)




般若(はんにゃ)と乾杯♪.....
 毎度言うようだが、例の「拷問」さえなければ、これはこれでここまでは快適な入院生活であった。それまでの仕事が異様に忙し過ぎて、一ヶ月休みなし!というのが数ヶ月続いていたから、ある意味、その「拷問」を除いては(まだ言うか?何度でも言うぞ)良い骨休めになっていると言っても過言ではなかった。

 ただ、入院当初は10月下旬とはいえ、まだまだ夏の面影が残っていたときであった。まさに事故った時などは暑いくらいであった・・・それ故に足回りもライディングブーツを履くなどの装備を軽視し、丈の短いスニーカーを履いてバイクに乗った結果がこれだ・・・というくらいの当時の陽気であった。
 ところがこうして入院生活が奇しくも順調にそして時間だけが着実に過ぎていくと、病室の窓から見える風景はいくらなんでも様変わりしていく。

 目の前は大通りの「青梅街道」。
 いつもだったら”あちら側”にいるはずなのに、どうしてオレは”こちら側”にいるのだ?いやいや今が非日常なのだから”こちら側”が実際は”あちら側”で、”あちら側”が本当なら”こちら側”なのだな。・・・わけわからんくなった・・・

 とにかくだ、いつも通りなれている目の前の大通りを、まさかこんな場所から自分がぼんやりと見つめる事になろうとは夢にも思わなかった事である。
 まだ夏の空気が漂っていて、これから深まりつつある秋の頃.....どっち側だかわけわからんくなったが.....どちらか側のここに押し込められ、そして(・・・またまた言うぞ・・・)例の「拷問」に奇声をあげているその間にも月日は流れ、あれほど緑が残っていた街路樹もすっかり燃え落ちてしまい、往来の人々もすっかり耐寒装備を整えている。

 そう、そんないかにも寒そうな表の様子を温かい病室の窓からペラペラな病院着の出たちで眺めているオレ。こんなところにいていいのか?いつになったらオレもあそこへ戻れるのだろうか・・・?それどころか、オレの足は元に戻るのだろうか・・・?かなりブルーが入っているオレ・・・。もしかしたらそれは自分の前をそのまま素通りしていった「秋」に、ほんの少し柄にもなく”センチ”にさせられたのかもしれない。

 それともう一つ。
 どうしても寝たきり状態が長く、ましてや怪我した左足は一切使うことができない為、あれよあれよという間に筋肉が削げ落ちていった。ある時、「拷問」の最中に自分の左足を垣間見たとき、思わず絶句したものだ。それは、見事に筋肉がなくなり、脹脛(ふくらはぎ)など骨からブラリと垂れ下がっているのみであった。ブラブラ揺れる自分の脹脛を見つめ・・・なにか生命の危機のようなものを感じた。たかだか一週間程度寝たきりになっていただけであのように衰えてしまうものなのか?!あぁ、恐ろしや恐ろしや・・・
 そんなことなど要因はたっくさん、たっくさん!
 あぁ、まだまだ当分ブルーな日々は続くであろう・・・

ぎゃはははははは・・・・!
 そんなブルーなオレなんかにお構いなく、相変わらずオッサン連中はパワフルだった。
 ここの病室長的存在な室井さんのパワフルさにみんなが引っ張られている感じだ。
 ベッドのカーテンなど閉めていようものなら「えーい、暗い暗い、辛気臭いわー!」と病室全てのカーテンを問答無用で開けさせる。
 このオッサン、例え寝たきり厳命の身なれど「自分でできる事は全て自分でする!」を身上としている。勿論本人はまだまだベッド上で動いてはいけない。飯を食うときにもベッドの背もたれを起こすのに何度までと角度指定まであるくらいなのだから。

 やはり不動のベッド上では「用足し」も看護婦さんの世話になるしかない。
 特に「大」の方は気が引けるというものだ。
 でも「動くな!」と言われているのだから仕方がない。
 大いに世話になろう!.....って言葉で言うのは簡単なのだが・・・
 オッサンにも乙女の恥じらいが・・・?!

 看護婦さんにカーテンを引いてもらい、大人用の紙オムツをケツの下に敷いてもらい・・・やるわけだ。で、終わると再びナースコールで看護婦さんを呼んで後始末をしてもらう。みんな言わば「まな板の上の鯉」になるわけだ。
 ん〜、幸いオレはその点動き回れたからそのお世話にはならずに済んだ。もしオレだったら・・・出ないだろうな、・・・ンコ。でもそんなことは許されるはずもなく「下剤」で強制排出されるわけだ。どの道逃げようがない。
 ただこの室井さん、その「まな板の上の鯉」はまっぴらゴメンとばかりに全部自分で事を済ます。最後に用済みの紙オムツをコンパクトにまるめて、そこで初めてナースコールをし、看護婦さんにハイっとそのまるめた紙オムツを手渡すのだった。見上げたもんだぜ屋根屋のフンドシ、ってなもんだな。確かにそうだ。看護婦さんの世話にされるがままでは、ますます心身ともに入院患者になってしまう(・・・とは言え、そのものなのだが・・・)。ということからも自身でやれるところはやっていこうと心に誓ったのであった。

 ところがっ
 「大」の方はまっぴらゴメンなのだが、「小」の方は・・・・・


尿瓶の利便性に、やめられないとまらない。


 いつしか入院生活そのものにも慣れきり、その存在の偉大さに気付く。
 そう、わざわざWCに行く面倒もなく、寝ながらにして「小用」を足せるこの快楽に思わず溺れてしまいそう・・・.。o○

 確かに失敗すると大変な事になるが、慣れてしまえばそれは御手のもの。
 逆にそんなもんに慣れてしまったオレってば、ズッポリ入院患者にハマってる?!
 だってぇ〜、わざわざWC行くの、かったるいんだも〜ん

さっきの決意はどこへやら・・・



 ある時、とある看護婦さん、名前は残念ながら忘れてしまったが誰が付けたか覚えている”あだ名”は・・・・・

「般若(はんにゃ)」

 いやいや普段は全然そんなことはなく、明るくて、てきぱきと仕事もこなすし、もちろん極上の超美人系。なのに「般若」とはこれいかに?!まぁそれはここでは置いておいて・・・。

 その般若さんが丁度、”尿瓶出揃った”頃合を見計らって病室にやってきた。


「は〜い、溜まってる人〜、持っていくよ〜!」


 明るく元気な般若さん。
 両手一杯に、なみなみ注がれた尿瓶びんびん♪
 おやぁ〜?その光景って何かに似てるぅ〜

 すると、般若さんはおもむろに叫んだ!















「へい!一丁おまちー!!」


 あ、そうか!  その色といい、泡立ちといい・・・


「あ〜ぁ、これがホンマもんの生ビールだったらなぁ〜」


 。。。ぼやくぼやく般若さん。

 ほんじゃぁ一丁、乾杯しますか!




( ^_^)/□☆□\(^_^ )カンパーイ!



ん〜、確かにまんまや・・・





'02,2,20up
written by cow-boy


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